蜜蝋とは(ミツロウとは)、さまざまな種類の蜜蜂(ミツバチ)が巣を作るために分泌する蝋分のことで、別名"蜂蝋(はちろう)"とも呼ばれています。英名では"ビーワックス(Bee Wax)"や"ビーズワックス(Bee's Wax)"と呼ばれています。
働き蜂は花蜜等から作られる蜂蜜を原料として体内で蝋を合成します。蝋は腹部腹板にある"蝋腺(ろうせん)"と呼ばれる器官から分泌されます。蝋線から分泌される蝋は液体ですが、分泌後はすぐに透明の固体になります。ミツバチは無数の六角形からなる"ハニカム構造"の巣を作ることで知られていますが、働き蜂は蝋線から分泌される蝋と花粉などを口の中で混ぜ合わせて巣を作ります。
蜜蝋の主成分は、脂肪酸の"パルミチン酸"や"セロチン酸"と高級アルコールの"ミリシルアルコール"などによる"エステル"という分子構造を持つ蝋分で、このほか花粉に由来するビタミン・ミネラルやカロチンなど色素や芳香を持つ成分を含有しています。
蜜蝋で作られる巣の色には淡黄色~濃黄色~黄橙色~茶色のものまであり、蜜蝋の色や香りは巣によって異なることが知られています。これは蜜蜂の種類や蜜源の違いにより、蜂蜜の風味や色が異なることと同じ理由によるものと考えられています。蜜源の花の種類が違えば花蜜や花粉の成分が違うため、蜜蝋の原料となる蜂蜜(元は花蜜)の糖分やビタミン・ミネラル等の含有比率や、花粉の含有する色素・香りなどの成分が異なるためです。
蜜蝋は蜂蜜を除いた巣から、加圧圧搾したり、煮溶かしたりして採取されます。蜜蝋には目の大きなフィルターで濾しただけの未精製の"生蜜蝋"から、目の細かいフィルターに通して不純物を取り除いた"精製未晒蜜蝋"のほか、蜜蝋を日光に晒したり、活性炭や白土などで色素を吸着するなどの方法により色素を除いた"晒し蜜蝋(さらしみつろう)"と呼ばれる白色の蜜蝋などの種類があります。
現在では蜜蝋は蜂蜜の副産物と考えられることもありますが、蜜蝋は古代ギリシャ・ローマ時代からさまざまな用途に使われてきた歴史があります。主に蝋燭(ロウソク)の原料として使われてきた蜜蝋は、電気が発達するまでの長い間、需要が大変高かったため、養蜂は蜜蝋を採取する目的で創められたとも考えられています。
近年では昔ながらの蜜蝋を使ったロウソクの"蜜蝋キャンドル"が、パラフィンを使ったロウソクに比べて煤(スス)が少ない等の長所があることから、手作りキャンドルの材料として人気が高まっています。
また、天然素材が見直されるようになったことから、"蜜蝋クレヨン"などの画材や"蜜蝋粘土"などの玩具、家具・床材・楽器など木工用の"蜜蝋ワックス"、靴など革製品の艶出し用の"蜜蝋クリーム"など、様々な日用品に使われています。
尚、蜜蝋は融点がおおよそ60度前後と扱いやすいことから、古代より彫刻などのアート作品や、主に美術工芸品や宝飾品などを鋳造する際の"ロストワックス法(消失型鋳造法)"において原型を作成する際に使われてきた歴史があります。